ブレずに「オリジナル」(コラム)

”オリジナルを作りたい”

最近セレクトショップや、特に新規のお客様の依頼でそのような要望が増えている。折しも昨今の資源高、物流コストに加え、たった2ヶ月半で30%近くの下落率という、史上初めてと言われる凄まじいスピードでの円安の真っ只中ある。

引用:ダイアモンドオンライン /Yahoo Finance

これは、我々のように競争の激しいものづくりに携わる企業にとっては尋常ではない打撃。それはちょうど下落前に成約したオーダーが、決済される時点で、企業一社分の利益がどこかで吹っ飛んでいる計算であり、まさに異常事態であると言うほか、思い当たる表現が無い。

にもかかわらず、コストがかかってもオリジナルを作りたいというお客様が増加している理由は何か。

ちょうど二年前の今頃、世界中でコロナ禍が蔓延し、姿の見えない敵と先の全く読めない不安感によって、ものづくりのマーケットは大きく停滞を余儀なくされた。人々の消費が途絶え、特に小売りのお客様を中心に滞留在庫の処理で途轍もない苦労をされていた。当然発注量も激減し、そこから現在に至るまで、同業で倒れて行ったところもかつてないほど多い。

ミニマム一個からできる「オリジナル」

そこで登場したのが、弊社でも「ハイブリッドマーチャンダイジング」として掲げている、既成の製品を市場で買い、検品、ラベル(ネーム)の付け替え、値札付け梱包をし、「オリジナル」として出荷するという手法である。一時はこれが爆発的に増え、われわれのようなものをつくるという企業はますます隅に追いやられた感があった。

それもそのはず、産地レベルで大量に生産されているので、単価は太刀打ちできないほど安い。しかも既に完成品である。デザインもおおよそトレンドに沿って企画されているので、写真映えもよく、それが極端に言えば一個から買えるお手軽さと、在庫リスクを限りなく削減できるのである。

知り合いの工場も、この頃はもう自前の企画生産を一旦やめ、「市場買いの化粧直しビジネス」に専念し始めた。そういう流れもあり、我々においても、もう新規の企画提案を断念しようかと思うこともあった。

それが去年末くらいから、徐々に変化を感じた。既存のお客様はもとより、新規のお問合わせで、仕入れベースのセレクトショップなどからオリジナルをやりたいという要望が増え始めたのだ。

さらにどこも求められているのは「差別化」だという事である。

ここからその要因を探るべく、日本国内のネット界隈を改めてリサーチしたところ、非常に興味深い状況を知ることが出来たのだ。それは各ネットショップで、これでもかというくらい同じ商品が並んでいるのである。

要するに中国の某通販サイトから直接なり間接なりで買いつけられたものを、自社の「オリジナル」っぽく販売されているところが非常に多く、これが消費者レベルで徐々に明らかになりだした。更に状況が悪いことに、多くの商品は現地のサイトで売価が分かるので、誰にでも仕入れ値を確認できる状態、つまりコストの中身が丸見えになるのだ。

あふれる「同じ商品」中国通販サイトより

いまや、ネットのブラウザで画像検索をすれば、同じ商品が一瞬にして探し出せる上に、ソートで値段も価格順にクリック一つで並び替えが出来る。理由はここだった。

弊社は、創業以来一貫して、売り手の立場に立ったものづくりでお客様と一緒になって、ものづくりをしてきたという自負がある。

昨今のアパレルは、バッグも含め、もう当たり前のものを作って出すだけでは、全く勝負にならないことは皆が感じていることだ。ましてや、競合と全く同じものを、値札だけ付け替えて販売する手法は、当初こそ通用したが、今や消費者は良く見抜いている。だが、在庫の問題も一方で存在するのは切実な問題として重々理解できる。

だからこそ、作り手と売り手がお互いのアイデアを出し合い、生み出す商品にいかに意味を持たせるか、そこをどれだけ奥行き深く取り組んで行けるかが非常に大きなポイントとなるのだ。オリジナルとは、そういう取り組みの思いを商品に込め、世に送り出す作業を意味する。

長年ものづくりを手掛けているが、そういった商品は、ちゃんとこちらの注ぎ込んだものを受け止め、宿した思いを市場で発揮してくれる。そして巡り巡って作り手の元に様々な形で戻って来てくれる。

2020年代 - 世の中はこの新たな時代の節目の初頭から、コロナと言う世界的な疫病によって、元に戻ることのないフェーズに完全に変化、移行してしまった。

この流れをチャンスと捉えるか、逆境と捉えるかは、そこに関わる人々の、ものづくりへの考え方次第だと考える。弊社は当然前者だ。

ぶれない。モノづくりの基本

これからも弊社は今まで通り、ものづくりに掛ける思いを共感できる人たちと共に、「オリジナル」への思いを、ブレずに探求して行きたい。いつの時代でもどんな分野でも、そこに「世界でここだけ」を築く喜びがある限り。