新しいファッション時代の到来(コラム)

ファストファッションがマーケットを席巻した時代になって久しい。現在のアパレル業界を見渡すとまるでファストファッションが市場を覆い尽くしているようだ。ある人が言うには「ファッションはもはや楽しむものではなく、消耗するものになった」と。

ファストファッションが業界全体に与えた功罪のインパクトは大きい。90年代の後半に突如現れ、そして急速にその勢いを拡大させて行ったこの巨大な渦は、業界に何をもたらし、そして何を奪ったのだろうか。

ファストファッションの登場でまず衝撃的だったのが、非常に高い流行性の服やバッグを手軽な値段で手に入れられるようになったということだろう。ZARAやユニクロの登場は、それまでほぼ一般的だと思われてきた価格の半額またはそれ以下で、品質はそこそこでもハイセンスな形や柄の服が買えるようになった。この「価格破壊ブーム」の到来は、消費者に驚きと喜びを与えると同時に、ファションとの距離を縮め、少ない予算で目一杯のお洒落を楽しめることから人々の消費欲を増大させた。その意味でこれらファストファッションの存在価値は大きかったと言える。しかしその反面何が起こったのか?この「価格破壊」がほぼ定着した2010年代辺りから、市場全体が、ファストファッションの持つ負のスパイラルに翻弄され始めた。そして今や完全に飲みこまれている感がある。それは徹底的なコスト至上主義のおかげで、ファッション本来の「楽しみ」や「こだわり」の部分が見事に削り取られてしまい、素材の良さ、仕立ての良さ、色使いの良さで商品が選ばれる時代が完全に吹き飛んでしまったからだ。

ファストファッション。その繁栄の功罪

今や素材や仕立てで商品を選ぼうとすると、いわゆる中間層の手の届かないヨーロッパのスーパーブランドに頼らざるを得ない傾向になり、かつて我々が憧れた個性的な輝きを放つ「中堅ブランド」は早々に消えて行った。

今我々が目にしている世界は、ファッションを憧れ、楽しむところから遥か離れたところに行ってしまった。更にコスト重視の下で多くのアパレルが「質より量」で利益を残そうとするばかり、生産過多で仕入れた商品の在庫で溢れ、これも業界全体の価値を落としている。

ではファッションの可能性はもうなくなったのか?ファッションは死んでしまったのか?いや、そうではない。むしろ今は、ファッションそのものを問い直す大変な変革期に我々はいる。何故なら近年ファストファッションへの「疲れ」が消費者に随所に見られるからだ。事実ファストファッション特有に見られるどこも同じような素材やデザインは、結局は味気のないファストフードを延々と食わされているような気持ちになり、その傾向はコロナ禍で強まった感じがする。

近年、特にかつてのファッションを知る年代や、全く新しい価値観を持った若者層を中心に、価格にこだわらず、自分のセンスに合った形や素材を選ぶ傾向が徐々にではあるが増してきたように思う。まさに「反ファストファッション」という流れである。また注目すべき点はSNSの出現で、昨日までの「消費者」が、個人レベルで自らのセンスと個性を武器に、小規模ながらも自ら小リスク、小ロットの「ビジネス」を発信し出している。この流れは特にコロナ渦出現より顕著に見られるようになった。そしてそれはまでのビジネスモデルを大きく変えて行く気がする。

戻そう。楽しむファッションへ。

こういった「マイクロアパレルビジネス」の台頭は、アパレルを取り扱う会社の規模や歴史は全く通用しない。ブランドが有名かどうかも関係ない。むしろそういったファクターが、推進力の足かせになることすらある。要は今までの常識は根底から変わったのだ。

このように、今現在進行形で拡大する、この個人レベルでのマイクロアパレルビジネスの立ち上げは、いわば「消費者自らがユーザー視点に立ったものづくり」の新しい形となり、今後はかつてないほど注目され、大きなチャンスが存在するように感じる。

もちろん、ビジネスととして成り立たせる上で、ロットの問題やコストとの問題は常にある。

デジタル時代でも人中心

ただ、今起こっているのは、これまでのロットやコスト計算の常識そのものを吹き飛ばす勢いで起こっている。おそらくこの流れはもう止まらないだろう。この流れで勝利するものは、この大変化に向き合いながら、デジタルとアナログをしっかりと使い分け、特にアナログの部分である「人と人とのつながり」を大切にし、そのつながりを一つの核とし、過去と現在の価値観の違いを解決しながら挑戦する集合体である。 ファストファッションもまた、その存在意義の形を変えながら引き続きマーケットに存在して行くだろう。しかし我々のような中小アパレル企業としては、今一度、時代の大変革期における自身の立ち位置を見極め、より消費者に近いものづくりの思いを共有できる仲間と、新しい「常識」を一から築き直す時代がもう始まっているのだと思う。

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