これからのデニム(コラム)
デニムはとてもユニークな服です。
デニムは普通の服とは正反対のつくりかたでつくられます。
まず糸の染色。デニムはインディゴ染料を使って糸を染めます。糸の外側だけが染まり、糸の中心は染まらず白いままです(中白といいます)。パスタのアルデンテみたいな感じです。デニムを染めるインディゴ染料は色が落ちます。ふつうの生地は色が落ちないようにしっかり染色をしますが、デニムは色が落ちることが特徴です。デニムの生地は、この色の落ちる中白の糸を使ってつくられるため、色の落ちていく過程で、インディゴブルーの豊かな色のグラデーションを楽しむことができます。
さらにユニークなのは「洗い」加工です。
デニム生地で縫製した服は、やすりやグラインダーなどでこすって、生地にキズをつけたり、穴をあけたりした後、洗い釜(大きな洗濯機みたいなものです)の中で、石やブリーチや様々な薬品と一緒にゴロゴロと「洗い」加工がかけられます。「洗い」加工をかけることで、色が落ち、あたり感がつき、ユニークな顔や風合いがつくりだされていきます。「洗い」加工により生地は縮み、縮むことで、デニム独特の濃淡や陰影、凹凸感(パッカリングといいます)が現れます。そして最後に乾燥させて、生地をさらに縮ませることで理想的なシルエットをつくりだします。普通の服は、こんな風にわざと破いたり、生地をいためつけたり、色を落としたり、縮ませてシルエットをつくりだしたりはしません。
このようにデニムの服は、1枚1枚異なる工程を経て作られ、異なる表情と物語をもってうまれてきます。キャンバスに絵を描くことに似ているかもしれません。布地を選び、そこに好きな絵を描いていく感覚です。デニムは丈夫なキャンバスなので、何を書いても受け止め、表現してくれます。このような自由さがあるから、炭鉱ではたらく労働者のユニフォームから始まったデニムは、表現豊かなキャンバスとして、広くファッションに使われるようになったのだと思います。
デニムの可能性はまだまだ広がります。
最近は自分だけのデニムをつくりたいというお問い合わせや、デニムでユニフォームをつくりたい(原点回帰です)というお問い合わせもいただくようになりました。
デニム好きな皆さんが、デニムをつかって表現をすることで、きっとまだ誰も見たことがない、あっと驚くようなデニムが出てくるかもしれません。
想像するととても楽しみです。
でも、デニムをつくるのは、実はとても難しいのです。自由だからこそ、なんでもできるからこその難しさがあります。特に「洗い」加工には専門的なノウハウがたくさん詰まっています。洗い釜に入れる水、デニム、ブリーチや石の量の割合(浴比といいます)と時間をしっかり管理しないと、良いデニムにはなりません。ブリーチが強すぎると色が薄くなりすぎてきれいなブルーにならないことがありますし、石を入れすぎると生地が破れることもあります。生地の縮みを厳密に計算してパターンをつくらないと、希望のシルエットにはなりません。
デニムをつくりたい皆さんを、専門的な知識でお手伝いして、ワクワクするようなデニムを一緒につくることができればうれしいです。